映画「フライト」

詳しい感想

前述した通り、私はこの映画を航空機事故とその責任を問う裁判がメインのサスペンスドラマ的な映画だと思って観に行きました。それは私に限らず、日本の映画館であの予告を観てこの映画を見に行った人は大抵そう思ったのではないかと思います。最初から最後まで主人公はお酒を飲み続けます。しかも凄い量。そしてその酔いをコカインで覚ますような完璧なクズ人間なのです。それにも関わらず、この映画を面白いと感じたのは、やはりロバート・ゼメキス監督の腕と、デンゼル・ワシントンの演技力のお陰ではないかと思います。以下は、私なりに感じた映画の良かったところ、悪かったところです。


よかったところ

冒頭のベッドシーン
ウィトカーとトリーナがベッドで目覚めるシーンで始まるこの映画。そのたった5分程度で、2人が恋人関係にあること、ウィトカーがバツ1で妻にも子供にも嫌われていること、アルコール依存症・薬物常用者であることなど、沢山の情報がごく自然な流れで判るのがすごい。このあたりは、脚本家を目指す人、演出家を目指す人にとってはお手本にすべき点です。さすがゼメキスだなと思わされます。
飛行機墜落シーン
約10分に渡る墜落シーンは圧巻です。もうこれのために1500円払ってもいいくらい。ウィトカーのクズっぷりをしっかり見せておき、その後の乱気流を難なく交わして少し株を上げ、居眠りをするウィトカーを見せてまた株を下げと、ウィトカーの株を上げたり下げたりしながらこれでもかと観客を焦らして始まる墜落。機体に大きな衝撃が走った瞬間に、クルーも乗客もパニックになってしまうわけですが、ウィトカーはそこでとても冷静に、ベテランパイロットらしい振る舞いでクルーたちにテキパキ支持を出して行きます。これが最高にカッコいい。あんなにダメな人なのに、腕は一流。いかにもアメリカのヒーローっぽいですね。でもそういうの大好きです。その後はVFXと様々な撮影方法を駆使して、非常に緊迫感のある展開になります。飛行機の操縦室という、限定的な閉ざされた空間の中で、あれだけの迫力を出せるのは凄いです。背面飛行するシーンは特に体に力が入りました。
ハーリンの存在
ジョン・グッドマンはとても好きな俳優さんです。今回演じたハーリンもクズなのにどこか憎めないところがありました。毎回登場する度にザ・ローリング・ストーンズの「悪魔を憐れむ歌」が流れるのには笑わせてもらいました。「アルコール依存症」という重いテーマのなかで、ハーリンの存在が観客にとって唯一緊張を解ける場面だったと思います。彼がいるのといないのとでは映画の印象も大きく違っていたのではないでしょうか。
デンゼル・ワシントンの演技
138分という長めの映画でそのほとんどが会話劇という中でも、飽きずに、むしろハラハラしながら見続けられたのは、やはりオスカー俳優デンゼル・ワシントンの演技力のお陰だと思います。真面目で誇り高い役が多かったデンゼルが、今回はこれ以上ないくらいのクズっぷりを発揮しています。それでもこいつは駄目だと見限れないのは、その奥にある人のよさがにじみ出ているからなのではないでしょうか。チャーリーもヒューも最後までウィトカーを見捨てませんでした。それはもちろん会社のためでもありますが、彼を救いたい、救わなければと思わせる何かを、ウィトカーは持っていたと思います。観客からするとウィトカーはダメ人間過ぎて全く味方になる気になれないとか、ウィトカーには嫌悪感しか抱かないという感想が多いですが、それはやはりデンゼル・ワシントンの演技が徹底しているからだと思います。この映画でアカデミー賞を取れなかったのは残念ですが、役柄が酷過ぎて取れなかったのかなとも思います。
公聴会前夜
ダメ人間ウィトカーにしては相当頑張って9日間の断酒をして挑んだ公聴会前夜。あのホテルの1室のシーンは、飛行機墜落シーンと同じくらいハラハラドキドキさせられました。監視を置いて、冷蔵庫の中身も替えてと、あそこまで徹底したのに、隣の部屋に繋がるドアがなぜ施錠されていなかったのかとか、都合よく風が吹くのかとか色々ツッコミたくはなりますが、あれはきっと神様が用意した試練だったんだろうなと思います。折角9日間も我慢したのに、あっさりお酒を発見して泥酔してしまうあたり、やはりウィトカーは駄目人間ですね。最初のウォッカの瓶を手にして、戻して、また手に取って戻してという演出はとても見応えがありました。
最後の決断
ウィトカーは自分にも家族にも周りの人達にも嘘をつき続けて、友人にまで嘘をついてほしいと頼みに行くほどでした。公聴会にも酔いをコカインで覚ますというズルい技を使って挑んでいます。「アルコール依存症ではない」「あの日もお酒は飲んでなかった」と、それはもう息を吐くように嘘をつくウィトカーでしたが、最後の最後で死んだトリーナが目を覚まさせてくれました。このシーンは正直ほっとしたといいますか、あのままウィトカーの嘘がばれなければ、彼はきっと罪悪感でもっと酒を飲んでしまうだろうということが想像に難くないので、あの場でやっと自分の嘘から自由になれたというのが感動でした。

悪かったところ

パイロット・キャビンアテンダントに失礼
ウィトカーの役柄がダメ人間すぎる点が難点でした。そこを削ぎ取ってしまってはこの映画は成り立たないのは分かりますが、本物のパイロットやキャビンアテンダントは人命を預かる仕事に誇りを持っているはずです。彼らがウィトカーのようにアルコール依存症で機内で酒を飲んだりしていないことはみなさんお分かりと思いますが、あまりにもひどかったので、ちょっとそれは失礼ではないかなと思いました。また、ウィトカーだけでなく、周りのパイロットやキャビンアテンダントが彼の状態に気が付いていながら、誰も止めたりしないのにも疑問を持ちました。
PG-12で大丈夫か
飲酒して操縦、飲酒運転、酔いをコカインで覚ますなどなど、主人公の行動が最悪です。これでPG-12でいいのか?と疑問に思います。PG-12とは、12歳未満の鑑賞には保護者の助言・指導が必要だという意味です。逆に言えば、保護者同伴なら見てもいいよという意味なのです。今回の映画は子供が見たがるような内容ではないですし、見せる親もいないと思いますが、この内容ならR-15でもよかったのではないかなと思いました。
息子との関係
主人公ウィトカーが酔って元妻の家を訪れるシーンがあります。そのシーンでは高校生になる息子に無理矢理ハグしようとして突き飛ばされ、さらには「出ていけ」と怒鳴られてしまいます。これだけ嫌われていたにも関わらず、ウィトカーが逮捕された1年後に刑務所に訪ねてきた息子は、「今までに出会った最高の人」というテーマで父のことをエッセイにすると言います。1年の間に何があったのかは分かりませんが、そんなに簡単に親子関係は修復できないのではないかなと感じました。触られるのも嫌がるほど嫌っていた父親が、今までに出会った最高の人にまで格上げされるには、それなりの理由が必要なはずです。そこを一切省いているので、最後にちょっと肩すかしを食らった気分でした。